空想マガジン
30年後をCUUSOOする 第6回
歴史家 高山宗東さん

時間や時空は伸縮自在。
軸足をどこに置くかによって、
江戸時代すら身近な存在になる

高山宗東さん

だしぬけですが、あなたはいま何歳ですか?
タイトルの通り、さまざまな分野で活躍する方々に30年後に思いをはせていただいているこのコーナー。30年後が身近に感じるか、それとも遠い未来に思えるかは人それぞれ。すぐそこにある「明日」よりも「30年後」に焦点を当てている方もいれば、未来に向けて1年ごとのヴィジョンを描いている方もいます。また、今何歳かによって、30年という時間の捉え方も当然ながら変わります。 「30年を長いと思うか短いと思うか、それは自分自身を人間として主観的に見るか、それともたとえばノミのような存在になって捉えてみるかでも変わりますよね。人間という存在を超えてさまざまな視点で時間を、ひいては時空を捉えられるようになると、それはとても楽しいことだと思うのです」。思わず目から鱗が落ちそうな話をしてくれるのが、今回のゲストである近世史研究家の高山宗東さんです。

歴史ははかない。でも、言葉はそれを継承してくれる

――高山さんは文献から歴史をひもとき、考証を重ねることを常日頃なさっている、それゆえものを考えるときに「言葉」から思考していくことが多いといいます。
「偉大な歴史と言われるものも、実はとてもはかないものなんです。例えば4世紀の中国において、政治家であり最大の書道家と言われた王義之という人物がいます。中国最大の書道家と言うことは、世界最高峰とみていい。でも、紙に書かれた文字はたったの一文字も残っていないのです。いま残っているのは、石などに写し取ったものだけ。千年、二千年の月日を経ると、モノは風化していきます」。
――その一方で、言葉は風化しないということですか?
「『風化』はしませんが、言葉はいわば『移りゆくもの』だと考えています。古来の大和言葉に漢語が加わり、カタカナ言葉も交わって、日本語はものすごいスピードで変化し続けているでしょう?  そういう意味で言葉は不完全なツールかも知れませんが、誰に対しても『フェア』なのです。その時代の言葉をたどれば、実はその時代の歴史や、また、空気感を知ることができます。例えば、仮に江戸時代に『民主主義』という言葉があったとしたら、いいニュアンスでは受け取られなかったでしょう。そもそも『民』という言葉に、『奴隷』に近い意味合いがあった時代もありました。このように、その言葉の変遷が、歴史を正しく解釈することの助けになると思っています」。
――確かに、ある時代においてどのようにその言葉が使われていたのか、それが分かれば時代の背景が自ずと見えてくるというもの。自分たちのご先祖様たちがどんな暮らしをしていたのかも、言葉が伝えてくれるというわけです。
「また、言葉を用いると、100年200年という時間を、私たちはすぅっと戻ることが出来るんですよ。自分のおじいさんおばあさんの、そのまたおじいさんおばあさんが生きた時代は、江戸時代。おじいさんやおじいさんから『私のおばあさんはね……』なんて話を聞いたとしたら、150年という時間の軸足が家族の縁側の茶飲み話に移って、ほら江戸時代がものすごく近くになるでしょう?  そう、時間と空間、すなわち時空は、伸縮自在、感じ方次第なんです」
――本当だ、ものすごく身近なところに、タイムマシーンはあるんですね。

「後世に残したい」と強く願っても、残酷に歴史は変わっていく

――そんな高山さんが空想する30年後とは、どんな世界なのでしょう?
「すごく変わっているでしょうね。たとえば今最新の技術と言われているデジタルテレビが、すでに過去のものになっているかも知れません。『え、まだデジタルテレビなんて、使えるの?』 なんて言われたりして(笑)。逆に変わらず残ってほしいものもあります。それは、『30年後にはなくなってしまうだろうな』という感覚。歴史家は、ときとして『この人がいなくなったらこの伝統的な技術はもう失われてしまう』という悲しい瞬間に立ち会わなければならないことがあります。たとえ、感情では『変わってほしくない』『後世に残したい』 といくら訴えかけても、歴史は残酷に変わっていく。30年という時間を経て、どんな世の中になっているかは分かりませんが、それを正確に観察し、記録する存在でありたいですね」。
――30年というキーワードから、一気に何千年もワープしてしまった今回のインタビュー。これまでに人間が過ごしてきた時間と、いま自分が過ごしている時間。そしてこれから始まる時間。それらはつながっていて、伸縮自在で、考え方ひとつで長くも短くもなる。孫悟空の如意棒みたいだとワクワクしてしまいました。30年後を「こうあってほしい」と考えるのはもちろんですが、「これを残したい」と強く願って空想するのも、また、私たちの未来をつくる一つの道すじなのかもしれませんね。